ある国立機関の研究員は、革新的な生体工学を発見した。
その技術を用いれば、世界の犯罪率を大きく減少できるものであった。
しかし、その技術の実験は法律に大きく縛られていた。治験を超えた人体実験が必要であったからである。
研究員は政府に相談をしてみたが、個人情報の保護を軸とする法律や人権の観点から研究には乗り気ではなかった。
研究員は、テレビ局に話を持って行くこととした。
テレビ局の反応は、大いに興味を引くものとされ、マスターピースとさえみなされた。
是非、研究を進めたい、そういう考えのもと、内密に計画は進められていった。
その研究とは、人体の五感のハッキングである。
五感のハッキングは、アイサイトハッキング(視界のハッキング)や、テレパシー・人生の完全なデータ・性格のパーソナリティの抽出やインストール、そして魂の研究に通じるものであった。
最初は乗り気ではなかった政府も、テレビ局が持て囃したことで、そういうことであれば、やってみようか、と船を漕ぎ出した。
計画は数十年に渡るものであった。
しかし、順風満帆といってよいほどに、日進月歩で進んでいった。
テレビ局では、密やかにアイサイトハッキングが流行し、話題となっていた。
五感のハッキングはそれだけではなかった。
クラックの技術も生み出され、「まやかし」と呼ばれる現代でいわれる、映像のハルシネーションのようなテクノロジーも産み出された。いわば、幻術である。
しかし、ある時期において、その被験者を始末してしまおう、という計画が持ち上がった。「まやかし」を主軸に用いた計画だ。
医療機関において、隔離施設にて封殺してしまおうという計画だ。
医療機関は政府とテレビ局の謀議に協力的であった。抹殺の意図もあった。だが失策も犯し、被験者を退院処分とすることになってしまった。
退院した被験者は、これまでに身に起きた、様々な超越科学的な出来事に関し、現在形で啓示者であり、また、自身の命を奪いかねない、全能を感じるテレパシーの相手方・サトリたち(仮)によって、革新的技術の教授や人生の記憶をほのめかされたり、時には、命の危険に脅かされたりしている。
そして、現在もなお、テレパシー以上の新機軸通信技術によってコミュニケーションが取られている。
五感のハッキングは中枢・末梢神経のハッキングである。
海外での研究に、量子もつれによる脳の作用システムが発表されたが、テレパシーの根幹は、その量子もつれを利用していたものであったと考えられる。
被験者は、研究者のヒントから、脳によるアイデアが連鎖的に生じる現象は、連想のシステムであると、テレパシーにより気付きを得ていた。